こんばんは。こんにちは。暑かったですね…。今日は外出したので、久しぶりのVoilogとして、暑かった記録とともに残しました。
#風の音に注意
しかしこの後、期せずして「点と線」の時刻表トリックを駆使する事態に陥るとは、夢にも思わなかったのです。
#あさかぜめっちゃ乗った
まるで酔って眠っているようである。濃紺のオーバーの端から茶色のズボンがのびて、黒い靴をはいた足をむぞうさに投げ出していた。靴は手入れがとどいていて、なめらかに光っていた。紺に赤い縞のある靴下がのぞいていた。
この男女の二つの死体の間は、ほとんど隙間がなかった。岩の皺の間を、小さな蟹がはっていた。蟹は男の傍にころがったオレンジ・ジュースの瓶にはいあがろうとしていた。
「心中したばいな」
と、老巡査は立って見おろしながら言った。
「かわいそうに。年齢もまだ若いごつあるやな」
©「点と線」新潮文庫
#松本清張は北九州の至宝
#たらこ唇が好き
点と線
中年の女は赤坂見附駅に向かう途中、青野で「赤坂もち」と「とりどり」を購入した。赤坂もちは死んだ祖母が好きだったもちである。仏壇にお供えしよう。そう口実をつけて赤坂見附に行くと買うのが通例となっていた。
昼下がりの東京メトロ銀座線は混んでいる。いや、朝も夜も混んでいる。赤坂見附から新橋まで移動し地上に出ると、SL広場の方角で街宣車のスピーカー音が鳴り響いている。暑かったが影を選びつつ鳥肌実のパフォーマンスではないことだけを確認し、次の打ち合わせのため国鉄の改札をくぐり抜けた。山手線に乗り一駅先の浜松町駅へ。そして浜松町から京浜東北線に乗り継ぐ。15時45分までは謎の快速運転で京浜東北線は新橋に停車しないからだ。
女は、バックパックを背中から前に移動させ、その際に手で持つのが煩わしい青野の紙袋を網棚へ載せた。しばらくすると目の前の会社員二人組が席を立ったので、座席に座る。すぐに電子計算機を開き、画面の明るさを最小限までに暗くし、提出が遅れていた前月分の請求書を作成しはじめた。早く出さないと迷惑がかかる。作成して伝送処理を実行した直後に間違えに気づき、急いで訂正連絡をする。直後に気づくところに情けなさを感じて自嘲する。なぜ伝送前に判明しないのかと。
そして目的地の桜木町駅に着いた。電車が停車するギリギリまで電子計算機を開き、止まると同時に閉じてバックパックに押し込み、慌てて下車する。
そして気づくのだ。青野の紙袋が、ない。
桜木町駅のホームは、夕方になる直前の西日がそのギリギリの存在を表現するかのように強く差し込んでいた。女はじっとりとした汗が背中を伝うとともに、寒気も感じた。なんということだ、今日の青野には2,000円も投資している。否、そういうカネの話しではない、祖母にお供えしなくてはならない。落ちている場合か。決して諦めるわけにはいかない。
国鉄の駅員に頼ろう。女はそう思い立ち、窓口へ行き事情を話すと、不機嫌そうな駅員の男が小さな声で対応した。
「まだ遺失物としての届けは出ていないので、もう少し後になったらまた来てください」
「私は16時08分頃にこの駅についた大船駅行きの電車の5号車付近に乗ったのです。大船で折り返す時に遺失物のチェックがなされるということですか」
「そうとは限りません。誰かが見つけて届けてくれたら、遺失物センターに集約されます」
「ピックアップはしていただけないのでしょうか」
「そうですね」
受け答えの内容というより駅員の態度に苛立ちを感じ、女は瞬時に計画を変更した。大船駅で折り返してくる電車に再び乗車し、自分の手で回収することを。人の荷物というものは気持ち悪くて誰も触らないし、更に昨今の人々はすべからくコンパクト電子計算機に目を落としてばかりであるため、網棚の上の紙袋には誰も気づかないに違いない。
自らのコンパクト電子計算機を起動させ、桜木町駅の時刻表を確認した。
桜木町を16時08分に出発する列車があった。女の体内時計は何故かこういう時に正しかった。この列車1417Bは、16時36分に大船駅に到着することになっている。
読者諸君に解説しておこう。京浜東北線は埼玉県さいたま市大宮区の大宮駅から、東京都千代田区の東京駅を経由して神奈川県横浜市西区の横浜駅を結ぶ運転系統の通称である。「京浜東北線」はあくまでも通称であり、正式には東京駅を境に東京駅 - 大宮駅間は東北本線、東京駅 - 横浜駅間は東海道本線に属しているが、走行線路は専用の線路(電車線)を使用し、両線の列車が走行する線路(列車線)とは別となっている。
そして、運行形態は横浜駅 - 磯子駅 - 大船駅間の根岸線と一体であり、合わせて京浜東北・根岸線と呼ばれる場合や、根岸線も含めて「京浜東北線」と記載される場合もあり、ここでは根岸線も含めた記載としてご認識頂きたい。
さて、その京浜東北線であるが、終点の大船駅では車庫に入らずにピストン運転をしていることを女は熟知していた。であれば、当該列車が何分に折返して発車をするのかを予測し、上り電車として桜木町を通過するタイミングで、青野の紙袋を回収すればいいのではないか。そう女は考えた。
16時36分に大船駅に到着した列車が、上り列車として発車するであろう時刻を突き止めるため、大船駅の時刻表をコンパクト電子計算機で確認する。
この16時台の発車時刻を見て、読者諸君はどの時刻が怪しいと思うだろうか?おそらく、16時40分か16時48分を疑うだろう。このうち一つに掛けるわけにはいかない。両方確認しなくては。
女は次に、この二つの便が、いつ桜木町駅に着くのかを調査した。
ターゲットは17時08分か、17時17分。この二つの便を両方とも確認できる方法を考える必要がある。先回りして、数駅手前の石川町あたりで待ち構えて1618Aに乗車し、そこでなかった場合は桜木町駅で下車し、今度は17時17分発を待って乗車する。これが一番安全であった。
しかし、女には16時20分から30分ほどの間、コンパクト電子計算機から伝送会議に出るという用向きがあった。そのため、先回りする案は取れないことになっている。まさか、約束の会議を、青野回収作戦より非優先にするわけにはいかないからだ。
いったん桜木町駅の改札を出て、伝送会議に出れる静かな場所を探した。打ち合わせをしながらも、頭は時刻表のことが大部分を締めていた。そこで女は腹をくくった。1618Aに乗り荷物を探して、なかった場合は次の駅で降りて、1616Bに乗って探す。そうするしかなかったのだ。
会議が終わり、再び桜木町駅に戻る。17時00分。乗車した号車の位置を思い出しながら待ち構えた。しかし、列車がホームに入ってきたのは17時05分だった。待っていた時刻と違うではないか。女は慌てて桜木町駅の時刻表を確認する。
あった、たしかに17時05分発の列車が時刻表に掲載されている。しかし大船駅からの列車運行表を見たときにはその時刻に桜木町駅に止まる列車は発車しないことになっている。一体どういうことなのか。まさか途中で列車が増えたということか?
その通りであった。磯子駅始発列車…!女は列車が到着したと同時に気づき、あやうく17時05分の列車に乗ってしまうことを免れることが出来た。
そしてこの時、女はかねてからの横着な面を表した。桜木町駅だけで二つの列車の確認を両方とも完結できないだろうか?桜木町駅は乗り降りの人数も多く、すぐに扉が閉まることはないだろう。また車両の位置もだいたいあたりがついている。西日がどんどん強く気温が上がる中、女は時刻表トリックを解き明かしただけで力を使い果たし、もはや赤坂もちへの執念を失いかけていた。
17時08分に列車が到着した。車内は思いのほか空いていた。急いで乗車し左右の網棚を確認するも、荷物は一切置かれていなかった。念のため、停車時間中に隣の車両まで急いで足を運んだが、結果は同じだった。
続いて待っていると、17時17分に到着するはずが、17時15分に列車が入ってきた。これは1616Bなのだろうか?いや、迷っている余裕はない。急いで再度乗車したところ、荷物は一切置かれていなかった。ああ、もうダメだ。諦めながら隣の車両も念のため足を運んだところ、網棚に行儀よく鎮座している青野の紙袋が目に入った。
「見つけたよぉ!」
女は誰かにすぐに伝えたかったが、実はこの捜索中もコンパクト電子計算機から打ち合わせが続いていたのだった。真面目な顔をしながら、思わずニヤける顔を落ち着かせることに集中したのだった。
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手に汗握る奪還劇!
一大スペクタクルにハラハラドキドキしながら読ませていただきました🍡🍡🍡
おばあちゃまも綾子さんのお腹も喜んでいらっしゃることでしょう…。