こんばんは。今日は天皇誕生日でお休み!ということで、溜まりまくった作業をしたり、文鳥に噛まれまくったりと、有意義な一日を過ごしました。作業は色々と効率的に進んだので、チマチマと隙間時間を見つけてやるよりも、一気にやるほうが向いてるなと自覚した次第です。
本日、気になった記事です。
「日本「技術劣化」の貿易赤字、サービス収支“赤字5.6兆円”の8割がデジタル関連」
いわゆる昔ながらの「貿易赤字」ではなく、デジタル貿易赤字と言うべきか、2022年のサービス収支の赤字の84%がデジタル関連で4.7兆円。内訳は以下の通りだそうです。
・通信・コンピュータ・情報サービス:1.6兆円の赤字
・専門・経営コンサルティングサービス:1.7兆円の赤字
・著作権等使用料:1.5兆円の赤字
1番目にある、通信・コンピュータ・情報サービスの赤字拡大の背後の事情として以下のように記されています。
この背景には、アメリカIT大手がクラウドサービスを拡張していったことがある。従来の日本ではクラウドを敬遠する傾向があった。多くの企業(とりわけ大企業)は独自の社内ネットワーク(LAN)を構築している。従業員が使うPCは、このネットワークに接続されている。情報システムは自社で閉じており、クラウドによる情報管理を排除しているのだ。
こうなってしまった大きな原因として、SIer(システムインテグレーションを行う業者)と発注企業との固定的関係があげられる。多くの日本の組織は、SIerへの丸投げ体制だった。それによってSIerは巨額の利益を得てきた。クラウド化するよりも、個別システムを複雑怪奇にカスタマイズするほうが儲かるのだ。そこで、SIer業界はレガシーシステムの保守メンテにしがみつこうとする。
丸投げになってしまう原因として、経営者がITに疎いという事情がある。日本でもその状態がやっと変わり始めたということだろう。
総務省は2020年2月、「政府共通プラットフォーム」に、アマゾン・ウェブ・サービスのクラウドサービス「Amazon Web Services(AWS)」を採用することを決めた。デジタル庁も21年10月、行政システムのクラウド化に使うサービスについてAWSとグーグルの2社を選んだと発表した。
外国製のシステムが国内大手企業を差し置いて採用されたことに注目したい。国内のクラウドサービスのシェアは、AWS、Microsoft Azure、Google Cloud Platformで8割を超える。
私はSIer社員は卒業しましたが、今でもITのお仕事はしているので、このサービス収支の赤字に関しては、なんとも居たたまれない気持ちになります。この記事を書いているのは野口悠紀雄大先生ですけど、上記の文章は本当にロジック破綻しており、私が現場で悩み抜いてきたことと全く違うと思っているので、一見解として述べておきたいと思いました。
#あまりにもSIerがかわいそうだよ
#恣意的または意図的にキリトリされて炎上の憂き目にあう人の気持ちが少しわかる
そもそもの問いとしては、「サービス収支の赤字の原因はなにか」「その原因の一つとして、クラウドサービス事業で日本の事業者が完膚なきまでにアメリカにズタズタに負けているのは何故か」ということを深堀りするべきだと思います。後述もしますが、SIerが儲けていることとか、クラウドサービスを使ってこなかったことが、あたかもサービス収支赤字の原因にすり替わっているように読めてしまいます。
そうではなく、日本の国産クラウドがアメリカのクラウドサービスに大負けしていることが原因であり、それは何故か?を深掘るべきと思いますし、その過程で当然あらゆる要素が出てくると思います。この文章ではロジックがジャンプしすぎていて、野口先生ひどいなと思ってしまいます。ロジカル・シンキングって言葉を知らないのかな?笑
色々あるのですが、まずここから行きましょう。
多くの日本の組織は、SIerへの丸投げ体制だった。それによってSIerは巨額の利益を得てきた。クラウド化するよりも、個別システムを複雑怪奇にカスタマイズするほうが儲かるのだ。そこで、SIer業界はレガシーシステムの保守メンテにしがみつこうとする。丸投げになってしまう原因として、経営者がITに疎いという事情がある。
このくだりは、文節で区切れば事実ではあるものの、悪意があってひどい書き方をしているなと思ったので、補足しておきます。「儲かるから個別システムを複雑怪奇にカスタマイズする」というロジックは、私は全く違うと思います(そんな会社もいるかもしれないけど少なくとも私は知りません)。
その前にまず大前提として、この事例として取り上げられているAWS、Azure、GCPなどを指した「クラウド化」と、「個別カスタマイズ」は対立関係として語るべきものではありません。「個別カスタマイズ」という言葉は、主にソフトウェアレイヤのことを指すのが一般的です。そして、クラウドの中でもSaaS色の薄いAWS、Azure、GCPの話しかしていないため、この比較論には非常に違和感があります。加えて、クラウドサービスが日本で多く使われているのは、サーバやネットワーク機器等のハードウェアに代替されるものとしての使い方(IaaSとしての使い方)であるため、ソフトウェアアプリケーションの複雑化と同じレイヤで比較して語るのは間違っていると考えます。
さらに言葉を付け足すならば、純粋なSIerはソフトウェア開発とインフラ設計と調達をする会社です。クラウドサービス事業に投資する体力は事業構造的に持ち合わせていません。クラウドサービスはやはり通信大手やデータセンタビジネスをしていた事業者を筆頭に投資をすべき領域です。なので、アメリカのクラウドサービスが寡占状態になっていることに対し、SIerを悪者にするのはおかしい。実際、SIerはちゃんとクラウドサービス自体は使っています。悪者にするなら、SIerではなく「IT関連事業者」とかもっと抽象度を上げてくれるならば良いですが、そうなるとどこが悪かったのかわかりにくいですね笑。
#全体無責任構造
それらの違和感をいったん横に置いた上で、「個別システムが複雑怪奇になる理由」だけを考えたとしても、それについてもSIerのせいだけではありません。
個別システムが複雑怪奇になる理由
その企業や組織の競争源泉になりうる部分の個別システムは、汎用品だけでは作れなかった(競争源泉そのものだから同じものが売られているわけがない)
どの企業でも行われるような汎用的な基幹業務(人事・会計・労務・開発・受発注など)は、汎用品が数多くあるが、その汎用品に自分たちの業務を合わせる柔軟性が企業にない(今までのやり方を変えられない)
メンバーシップ型ですりあわせ力こそ強みと考えている企業としては、業務を細かく切り出して合理的にモジュール化して考えることが不可能である。そのため、そのため、汎用品に対して、現状オフラインでやっているままの、「すりあわせのための謎の機能」や、「多段階承認(電子ハンコのスタンプリレー的な)機能」をつけてくれ、でも部長はどうせ中身を見ないから、部長のときだけ画面は簡素にしてくれ、とかいう狂った要望が出てきてしまう。
一度システムが出来上がってからこぼれ落ちていた機能、考慮が足りていない機能があることは当たり前で、それを継ぎ接ぎで機能追加していくケースが非常に多く、そうなると全体像を把握することが困難になる。そのため、システムを刷新する際の要求定義(Design)の前には、業務のBPR(Business Process Re-engineering)で建前上はEliminate(排除:取り除く)・Combine(結合:つなげる)・Rearrange(交換:組み替える)・Simplify(簡素化:単純にする)にチャレンジをしようとはしつつも、すでにある機能を排除するジャッジをするのは、ユーザ企業にとっては至難の業である。なぜなら、自社のシステムにもかかわらず、排除した後の影響有無を誰も正確に把握できていないためである。そのため、「現状維持・現行踏襲」、つまり「今の複雑怪奇なままを、新しくしてくれ」なんていう言葉がユーザ企業側から出てくる始末である。
さらに、複雑怪奇なシステムでありつつも、それはソフトウェアの話しであり、インフラの「クラウド化」ができないというロジックも正確ではありません。では何故、クラウドサービスの活用が遅れたのか。その理由は、以下の通りだと考えます。
継ぎ接ぎされたシステムの全体像は難解を極めている。暗黙の了解として、SIerが未来永劫的にその難解な仕様の管理をし続ける・面倒を見続けることを要求されるため(売上という人質を取られている状態)、「固定的関係」にならざるを得ない。本来は一社だけに人を張り付け続けることは経営上のリスクであるはずだが、気づいていても構造が大きすぎて誰も変えられない。
しかし、SIerとしても、それを「お客様との信頼関係が強固である」と読み替える理屈も当然あり、長期的な共依存関係を続けてきてしまっているのも当然事実である。(実際、そういう社員は非常に評価される傾向にある)
難解な仕様を未来永劫的に管理し続けるため、SIerはお客様と相対する形で部門構造を作って、お客様専用の人材を育成し続けなくてはならない。ゆえに、強烈な縦割り構造から脱却することができない。縦割り度が強くなりすぎると、各部門の技術力は偏重し、かつ陳腐化していくのは必至である。
上記の理由により、新しい技術であるクラウドサービスを活用したシステム開発力を身につける猶予とリソースがなく、IaaSのみならずSaaSとしての有効的な活用がなかなか出来なかったのは事実である。技術力がないというよりも、各社クラウドサービス等の「仕様」を理解するリソース(時間)がないだけであり、技術力がないとするのも浅はかである。ただし、何度も書くが、だからといってこのクラウドサービスを利用してこなかったことがサービス収支赤字の原因では断じてない。
他にもクラウド活用に乗り遅れた理由として、セキュリティに対する漠然とした不安はいつまでもあり、事実現在もリスクとして残存し続けていますが、どちらかというとそれはちょっと横においておいて、「これ以上、我が社だけがクラウドの波に乗り遅れたらマズイ」「銀行までAWS使い始めた」「コストがあまりにも安すぎることに眼がくらんだ、こんなところでコストばかり増やしていても競合他社に負けてしまう」というようなユーザ企業側の経営判断により、一気にクラウド化が進んでしまったものと思います。
私は、クラウドサービスのセキュリティ技術面については問題ないのだろうと思いますが、それよりもアメリカに全部丸見えで、ほんとにいいのかなって思っています。政府共通プラットフォームにすら、国産クラウドを選ばなかったですからね。日本の安全保障は大丈夫かなって思います。サービスを比較して、単に安くて機能の良い業者を選ぶんじゃなくて、国策としてクラウド事業にはむしろ投資して一緒に育てあげる、専門に作ってあげる、ぐらいじゃないと、、と思うのですが…。
長くなってしまったのですが、まだ終わっていないのでw、明日続きをお送りいたします。
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